今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、「村上海賊ミュージアム」学芸員の田中謙さんと「坂の上の雲ミュージアム」学芸員の川島佳弘さん。じつは大学の同級生というお二人ですが、2つのミュージアムはこれまでにも共通テーマで特別展を開催するなど連携してきたそうで、今回のテーマは「秋山真之が村上海賊に学んだこと」。異なる時代の海で活躍した真之と村上海賊の関係を紐解いてもらいました。


 

佐伯)もう500年も600年も間が空いている時代が違う、この村上海賊と明治時代の海軍なんですけれども、その時代は違っても海を舞台に活躍したっていうことは共通していますよね、もちろん。で、田中さん、何かこう、その共通項が影響に繋がっていくっていう部分があるんですか?

田中)そうなんですよ。まずですね、村上海賊と秋山真之の秋山家っていうのは地理的な接点も実はあるんですね。実は秋山家のルーツっていうのを辿っていくと、村上海賊のいた今治に繋がるかもしれない。

佐伯)え~?そうなんですか?

田中)そうなんですよ。それが坂の上の雲ミュージアムさんに寄託されている資料で「秋山家譜」っていうですね、秋山家の由緒を示した資料があるんですけども、それによると秋山家は伊予の河野氏の出で、最初はね上野っていう名前を名乗っていたんですけども、後に讃岐=香川の方に移って秋山姓を名乗ったとされると。

佐伯)へ~。で、その後、豫洲=伊予の今治のうち武智の古谷、今も古谷っていう地名あるんですけどね、というところに移って、それで今治城主・藤堂家に使えたっていう風に言われてるんですよ。

佐伯)は~、そうなんですか。

田中)そうなんですよ。で、その藤堂さんが伊賀ですね、三重県の方に移った時に一緒に行って、それからまた今治に帰ってきて、そのあと松山に移って松平さんの家臣になったっていうような。

佐伯)え~、これは知りませんでした。

田中)という話があるんですけど、それでいいですか川島さん?

川島)ははは(笑)。まあ、大筋、だいたい(笑)。ただ、どうしても、もう、こういう系譜、家譜みたいなものっていうのは、どうしてもその根拠がなかなかはっきりさせるっていうのが難しいところがあってですね。だから今出てきたお話でも、その河野っていう出自を持ちながら例えば讃岐に関わりを持つっていうのは、ちょっとこう…なかなか繋がりにくいところもあって。だから何が真実かってちょっと分かりにくい所はありますけど、ただメッセージとしてはやっぱりその瀬戸内ですよね、讃岐にしても伊予にしてもですね。このあたりの地域っていうのは非常に接点も大きいので、特に戦国時代というのは人々がかなり行き来してますから。だからそういった点では、まあ矛盾はないのかなという気は致します。

佐伯)「坂の上の雲」の世界でも秋山真之のお父さんが松山の下級武士の出ですよっていうところは、皆さんご存知の方も多いと思うんですけれども、今治と縁があったって言うのはそんなに有名な話ではないですか?

川島)そうですね。

佐伯)知る人ぞ知る、みたいな。

田中)そうですね、秋山家の記録の中でそのように伝わっているというような扱いになるんですけど。

川島)そうです、そうです。

佐伯)はあ、そうなんですか。

田中)その他にも「秋山真之」っていう伝記を見るとですね、「伊予は瀬戸内海賊の根拠地であり、そのような地理と歴史を背景として秋山真之のような名将が生まれたことは決して偶然ではない」と。

佐伯)あ、これは偶然じゃなかったんですね(笑)失礼しました。

田中・川島)(笑)

田中)というようなことが書かれていてですね、あの村上海賊と秋山真之っていうのは、そういう資料的な何か根拠があるわけじゃないんですけども、そのようなつながりがあるという風にですね、語られてきたということですね。

佐伯)で、その偶然では無い事の中に、真之が村上海賊からこれは受け継いだんじゃないかと思われるというものはありますか?

田中)そうですね。秋山真之さんっていうのは、すごくやっぱり戦術の勉強とかをしているみたいなんですよ。で、あの海外の戦史、戦の歴史、戦いの歴史ももちろんですけども、国内の戦の研究だとかをしている中で、これ秋山真之さんだけじゃなくて明治の海軍がそうなんですけどね、海軍さんが、江戸時代という時代に作られた兵法書って言うんですけども、江戸時代っていう時代には戦国時代の戦のやり方とかですね、そういうものをまとめた書物がたくさん出来て、それを勉強するんですね。その兵法書と呼ばれるような史料を明治の海軍がたくさん収集してるらしいんですよ。「大日本海史」っていう史料を編纂しようとしてるみたいなんですよね。それらを用いて、たぶん秋山真之がすごく勉強をしていたと思うんです。で、村上家の伝来史料の中にも、その兵法書で例えば「舟戦以律抄」なんていうような、そういった史料も残っていたりするので、そういう村上家の戦術をまとめたとされるような兵法書を秋山真之さんも多分勉強していたんじゃないでしょうかね。

佐伯)ま、当時日本海軍は近代的な海軍としてしっかり確立しようという動きの中ではあるけれども、その戦術としては古来の戦術もしっかり学んでいたということなんですね。

田中)そうですね、古今東西の戦史を研究する必要性みたいなのを、秋山真之も書物の中で説いていますのでね、そういう史料も収集していて。今もこれ東京大学に全部保管されていて、データベース化されていますので、じつはインターネットで見ることができるんですよ。

 

 


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Selected By Haruhiko Ohno


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