今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、フリー学芸員の阿部真さん。平日は会社員、週末は学芸員という阿部さんは、浮世絵がご専門。来春には銀座に「動き出す浮世絵ミュージアム」が登場予定など、令和の今も人気の浮世絵の魅力について、「浮世絵は江戸時代のサブカル」をテーマに、「浮世絵=版画ではない」「千円札のグレート・ウェーブ」「浮世絵のリアリズムとデフォルメ」というキーワードでお話を伺いました!

※番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。


佐伯)そもそもその浮世絵の定義みたいなものって、どうなってるんでしょうか?

阿部)そうですね、皆さんが浮世絵って言って思い浮かべるのはやっぱり富嶽三十六景であったり、写楽の役者絵であったりとか。あれは多色刷りの木版画なので、いっぱい複製できる、大量生産できる、割と出版物という感じに近いものなんですけど、浮世絵自体は「浮世を描いた絵」っていうことになる。その「浮世」っていうと、意味としては「一般庶民の生活」っていう感じなので、源氏物語絵巻みたいに、宮中の貴族とかの生活とかではなくて、庶民が普通に生活してる場面を切り取ったりする絵を書くのが浮世絵。「浮世絵」っていうと、庶民の生活を描いていれば「浮世絵」なので、版画じゃないものも浮世絵にはなる。

佐伯)ああ、そういうことですか。「浮世」って「浮ついた世の中」って書きますけれども…

阿部)あれも元々は末法思想っていう、ブッダが亡くなってから、最初「正法の世」っていう正しい法が守られて皆ちゃんと修行して悟り開きますみたいな時代と、次が「像法の世」って言って、修行する人はまだいるけどなかなか悟り開けるぐらいまでやる人はいないってなって、最後に「末法の世」になったら、もう修行する人もちゃんといなくなってブッダの教えが忘れられていくみたいな。そうすると世が乱れて、何か災いがいっぱい起きるみたいになって。日本は1052年に一応その「末法の世」に入ったってことになってて。

佐伯)へ~。

阿部)諸説あるんですけど一万年ぐらい「末法の世」が続くので、今もまだバリバリ「末法の世」っていう…

佐伯)バリバリ「末法の世」!

阿部)ちょっと世界情勢を見てるとそんな気もしないではないですけど。

佐伯)あ~、ちょっと世の中が乱れてっていうのはギクッとするところもありますけれども。

阿部)なので、その「憂鬱」の「憂」で「憂き世」で、最初は。

佐伯)そっちの!

阿部)「末法の世」の厭世観というか、「この世は終わりだ」みたいな感じから最初「憂き世」っていう名前で広がってたんですけど。

佐伯)じゃ、憂う方だったんですね。

阿部)はい。そこから、今みたいに社会保障制度とかもないので、明日もわからないような儚い人生で、病気になっても今みたいな医学もないし、明日生きてられるかどうかもわからない、足場がしっかりしてないようなふわふわした感じっていうところから、儚いっていう意味で、今度「浮く」っていう今の「浮世」の字になって。

佐伯)「儚い」っていう意味が込められてた。

阿部)そうですね、頼るところがないみたいな感じのふわふわした感じの「浮く」ったんですけど、なんかそのうちだんだん「明日もわからない世の中なら、楽しく生きた方がいいんじゃないか」みたいな感じで、だんだん浮ついた方の意味になってきて。

佐伯)え、面白い!「浮世」っていう言葉一つ見ても、そんなに変わって。

阿部)そうですね。なんか日本人はちょっと根が能天気なんじゃないかなっていう気もしないではないですけど(笑)

佐伯)今で言うところの「浮世」っていうのは、おっしゃったような「どうせこんなんだったら、もう楽しんだ方がいいよね」みたいな「浮世」?

阿部)そうですね、皆さんが浮世絵としてイメージするようになった絵で描かれてるのは、その浮かれた感じの「浮世」が最終的に定着したというか、普及した浮世絵かなという感じ。

佐伯)なるほど。だから、ちょっとこうユーモラスな感じの絵だったりとかもありますよね。

阿部)そうですね、今の世の中をそのまま描いて、「浮世」ってそういうところから「現代風の」「今の」っていう意味の言葉にもなっていったので、その今の世の中を描いてるっていうので、庶民の流行りの着物の柄とか髪の結い方とか、そういうのがファッション雑誌的な感じの意味で広がって人気になってたとかもあるし。

佐伯)わぁ、そうなんですね。

阿部)歌麿は、最近の喫茶店にいるかわいい女の子みたいな感じの、会いに行ける、そのお店に行けば会える美人画みたいな。そこが実際に行列ができて混雑していくとか。

佐伯)へ~、面白いですね(笑)それは今の、なんか誰かがインスタとかで女の子の画像を上げたら、話題になってみたいなところに通じてますね、確かに。

阿部)同じような。

佐伯)そうか。美人画でいうと、人気を集めた作品、誰もが知っているというか、思い浮かべるのはあれじゃないですか、「見返り美人」。

阿部)あ、そうですね!歌麿の前の一番最初のたどってった源流の美人画は「見返り美人」。あれは切手になったりもして。

佐伯)やっぱり私なんか美術の教科書で見た、習うからみんな知ってるのかなと思ったり。

阿部)そうですね、美術と日本史の教科書には出てきますね。

佐伯)あ、日本史にも。あれは版画じゃないんですよね。

阿部)そうです、あれは一点物の「肉筆画」っていう直接書いた絵で。菱川師宣の代表作みたいになってますけど一点しかないので、世の中の人がみんなが見ることができた作品っていうわけではなくて、絵が好きな人の中で出回って人気があった作品っていう。当時の絵は箱に「本物です」とか「誰々が所有してました」みたいな箱書きっていうのをするんですけど、それに山東京伝(=江戸時代後期の浮世絵師・戯作者)の箱書きもあるみたいなので、そういう人たちの、物好きな人たちの間で出回っていろいろ回ってた名画っていう感じっぽいですね、はい。

佐伯)その一点物が、切手になったり教科書に載ったりっていうこともあって、もう今では日本人の多くが知っているっていう。

阿部)そうですね。多分その「見返り美人」っていう言葉もキャッチーなのかなっていう気はしますけどね。

佐伯)たしかに!あれはその当時から、そういうタイトルだったんですか? 誰かが途中でつけたのかな?

阿部)日本の絵は、出版されたやつに名前書いてあるやつもあるんですけど、あんまりタイトルをちゃんとつけなかったりするので、後の人がどう読んだかみたいなので定着していくパターンが結構多かった。「見返り美人」も絵を見た感じ落款しかないので、みんながそう呼んだのがそのまま定着した感じかなと思います。

佐伯)そうですか。今の一点をもってしても、やっぱり「浮世絵=版画ではない」っていう、このキーワードに繋がりますよね。

   


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Barbara Acklin – Love Makes A Woman
Bob Dylan – Corrina, Corrina

Selected By Haruhiko Ohno


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