今週は「坂の上の雲ミュージアム」からの生放送!毎年恒例となった、松山出身の「反骨の軍人」水野広徳の業績を顕彰するシンポジウム回です。ゲストは、水野の追悼法要を行っている蓮福寺の山岡宏住職とNPO法人アイムえひめの菅紀子理事長、そして大和ミュージアム館長で海軍史研究家の戸高一成さん。山岡さんと菅さんには顕彰活動を続ける思いについて、戸高さんには「『此一戦』から非戦へ 海軍史から見た水野広徳」というテーマでお話を伺いました。世界で紛争がつづく今だからこそ見つめ直したい水野の足跡。個人と組織・国家の責任、事実に基づいた記録を残す大切さ、正しいことを正しいと判断する力。現代を生きる私たちに、水野の歩みが問いかけるものとは?あなたも一緒に考えてみませんか。

※番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。


佐伯)実は今回、戸高さんにゲストでご出演いただくということになったときにですね、水野広徳について、ほとんど知られていない「最後の発言」というのをご紹介いただけるということで、「一体何なんだろう?」と思っていたわけなんですが、ここでそちらのお話を伺っていきたいと思います。どういう発言になるんでしょうか。

戸高)そうですね、まず水野は先ほど言ったように、非常に日本がボロボロに負けるようなことをどんどん書いたので、もう昭和の10年前後はもう全く発言の場を封印されてしまうんですね。ですから、普通には水野はもうそこで、それ以後新しい出版物はないしコメントも出ていないということに普通思われてるんですけど、実はですね、昭和19年の春に、「此一戦」の英訳本っていうのが出るんですよ、戦争の真っ最中にね。(※「此一戦」は、海軍将校として日露戦争に従軍した水野が手掛けた戦記)

佐伯)え?「此一戦」のですか?

戸高)そう、これを英訳したものを、日本もだんだん太平洋での日米戦争に圧迫されて負けてきて、占領地の人なんかが非常に日本に対する信頼が落ちかかってくるのを感じるんですね。そこで「日本はこんなに強いんだ」っていうのをアピールするために、プロパガンダ用に「此一戦」の英訳本を作って配ることにしたんですよ。

佐伯)何だか皮肉に感じますね。

戸高)そうなんですけどね。ただね、このときに、水野は前書きを書き下ろしで新しく書いてるんですね。

佐伯)あ、「此一戦」自体は日露戦争のことの戦記だけれども、前書きが昭和19年に。

戸高)昭和19年の1月付で書いてまして、その中に「日本が存亡をかけた日本海海戦からもう40年経った。」当時40年経ってるんですね。で、「もう当時とは全然違って戦争は大変な規模になっている」と書いて、それで基本的には「日本は強かったので、みんなも安心してね、日本の強さを信じてくれ」という流れを書くんですよね。でも中にそ~っとですね、「大東亜戦争は今激しい変化の中にあって、我が帝国の運命は風前のともしびである」っていう文言がそっと入ってるんですよ。

佐伯)でもこれ…海外の国の方にも向けてということで英訳されたんでしょうけど、その一文も英訳されてるんですか?

戸高)そのまんま載ってるんですよね。ですから、この本は「此一戦」の翻訳だけだと思われて、おそらく検閲をあまり通ってなかったんじゃないですかね。

佐伯)これは意外な。

戸高)ですから私もそれを昔、神戸の古本屋さんで手に入れて調べたら、所在がはっきりしているところって数冊しかないと思うので非常に珍しいんですけども、皆さんも前書きが昭和19年の描き下ろしの文章がついていると気がついた人があんまりいないようで、あんまり聞かなかった。私もざっと見てですね、「わ、こんな日本がもう風前のともしびだと書いて、これを外国にばらまいたのか」と思うと、まあ皮肉だし、水野さんっていうのが日本海軍の最大勝利である日本海海戦から書いたものが、最後の本がまた「此一戦」であったというね。水野さんの一生の締めくくり、そうしたような著作で最後のコメント。これが彼の、水野さんの一つの遺言の一つになってしまったのかなと。そして水野さんはそのまもなくね、翌年に終戦を迎えるわけですよ。そしてそれまで自分が一所懸命言っていたことが受け入れられずに、自分が言った通りの悲惨な敗北を迎えるんですね。ですからこれを見て私、ちょっと話がまたずれるんですけども、ギリシャのね、ギリシャの半分神話なんですけど、トロイ戦争のときにトロイの木馬っていうの皆さんも有名で知ってると思いますけど、これギリシャ軍が、この陰謀というかですね、これでトロイを攻め滅ぼすんですけど、そのときラオコーンいう予言者がいて、「このトロイの木馬は策略だから絶対お城に入れてはいかん」って言うんですよ。ところがこれは誰も信じなかった。これは神話的に言うとポセイドンが、「ラオコーンの予言は全部誰も信じないように」っていう呪いをかけるんですね。それ以来、本当のこと言ってる予言者の言葉は誰も信じないっていう、そういう一つの不思議な伝統というか、そのフレーズができるんですよ。ですから私は水野を見てですね、本当のことをずっと伝えてきて、とうとう誰もそれを信じてくれなかった。水野自身は自分の言った通りの結果を見てどんな気持ちだったか…なかなかわかりませんけど、そしてその結論を見て亡くなったということで、一つの明治から昭和にかけてを通して一つのこの海軍史観のあり方として、非常に重要な一生を送った人なんだなっていうふうな印象を受けましたね。

佐伯)そうことですか。その未来を、つまり見通していたという、それだけの洞察力が水野にはあったということですよね。

戸高)洞察力っていうのも確かですけど、彼は見たままをそのまま…自分の願望とかね、その大和魂とか精神論ではなくて、実際にこういう軍人としてアメリカはこれだけ強い、日本はこれだけだということで、冷静に見れば誰でも到達できるはずの結論を彼は言ってるつもりなんですよ。ただ他の人は願望に任せて、いやいや、アメリカだろうがロシアだろうが、みんな最後に言うのは戦争をですね、アメリカとやってはみんな勝てそうもないってみんな思ってるんですけども、いや日露戦争のときはやはり日本の数十倍の国力の国をやっつけたじゃないかというところで、その願望に任せて対米衝突に入ってしまうんです。ですからそういう意味で、水野は予言者ではあったけれども、みんな冷静に考えればたどり着き得た未来を言っていたのに誰もそれを信じなかった。要するに願望の方を優先したということにおいて、日本を滅ぼしたんだと思うんですね。ですからそれは今でも常に一緒でね、やはり冷静にものは考える。ただし一番最初に言ったように「正しい情報からしか正しい結論を得られない」ということを改めて教えてくれたのが、水野の一生じゃないかなというふうに思います。


[ Playlist ]
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Feist – One Evening
Hindi Zahra – Fascination (Album Version)

Selected By Haruhiko Ohno


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