きょうは防災の日です。
わが家のあるマンションでも、けさ住民の防災訓練がありました。

起震車は、機会があれば、なるべく体験するようにしています。
震度6の揺れ、7の揺れとはどんなものか。
文字や映像からの情報で、いくら頭に叩き込んでいても、実際に体感してみないと、
「あの状況で何ができるか」と、シミュレーションできないし、
1度でも体験していると、「体の記憶」が、頭のパニックをやわらげてくれます。

もちろん会社でも、かなりの時間を割いて、災害のときにどう対応するかの訓練をしています。

わたしたちは、「災害時アナウンサー初動マニュアル」があります。

これは、阪神淡路大震災を教訓に作成したものですが、時代とともに社会の状況やインフラが
変化したこともあり、おととしから、新しいものに作り替える作業をしていました。
その作業の途中に、去年の3.11が発生しました。

「未曾有」という言葉が飛び交った大災害を受け、編集途中の内容も大幅に変更し、
去年の9月1日に完成させました。

最初のページは、地震が起こった時に発するアナウンスコメント集です。

「放送中」に地震が発生したときのコメント
「地震発生5分以内」にアナウンスするコメント
「10分以内」にアナウンスするコメント
「10分以降」のコメント。

なぜこのように細かく分けているかというと、
地震発生時と直後、そして10分後30分後、1時間後、半日後、1日後と
時間がたつにつれ、人々が必要としてくる情報も変わってくる、ということです。

地震の最中や直後は、まず、自分の身を守ること。
10分以降になると、少し落ち着いて、周りの状況が見えてきます。
1時間もたつと、ライフラインのことが心配になるし
1日たつと、食料や燃料のサポートがどうなっているのか、知人・友人の状況も
知りたくなります。

時間軸とともに、被災者が必要になるだろう情報やコメントを、
被災地の放送局や被災者の方からヒアリングをして、ピックアップしたコメント集です。

そしてそのアナウンスコメントも、きちんと具体的な文章で書いています。
地震が起こった時は、アナウンサーも被災者です。
突然の大きな揺れに、きっと頭は真っ白になるでしょう。
平常時なら、すらすら口から出るコメントも、頭が真っ白になった時には、
きっと言葉にならない言葉が出るかもしれません。
以前にも書いたように、「あわ、あわ、、」しか言えないパニック状態のアナウンサーが
画面に映ると、そのパニックは、画面の向こうには何倍にも増幅して伝わります。

そのため、まず、アナウンサーが「頭が真っ白」になることを想定して、
真っ白状態でも、原稿の「字面(じづら)」を発音することくらいは、
アナウンスのプロですから、最低でもできるはずです。
なので、このコメント集に書いている文字どおりに「唇を動かせ」ば、
最低でも放送ができる、というしくみにしているのです。

そして、この「初動マニュアルには、アナウンサーの役割・仕事内容についても
ふれていますが、3.11をうけ、これまでと変更した部分がいくつかあります。

わたしたちは、有事の放送には、アナウンサー2人体制をとります。
1人は、実際に画面に出て、原稿を読んだり、危険情報を伝えたりする
「メインアナウンサー」。
もう1人は、メインアナウンサーに、次に読む原稿を指示したり、
記者や報道デスクから届いた原稿を、読みやすくリライトして、手渡したりする、
「サブアナウンサー」です。

メインアナウンサーは、落ち着いて、ゆっくりはっきりと、間違えずに
情報を伝えることに全神経を注がなくてはなりません。
スタジオに次々と入ってくるメモ程度の走り書きを、「読める原稿」に書き直し、
重要な情報か、出所のはっきりしない情報なのかを選別し、時間ごとに変わる状況を、
時系列に整理しながら伝える役割を、メインアナウンサーが、
“しゃべりながら”同時にこなすことはほぼ不可能です。

そこで、メインアナウンサーの「頭脳」部分として、
そばでその作業を行うのが「サブアナ」なのです。
いうなれば、メインアナウンサーよりも、経験と知識が求められる役割です。

これまでわたしたちは、アナウンサーが2人いたならば、
若手を「メインアナウンサー」に、ベテランを「サブアナ」にする、
というマニュアルを作っていました。
しかし、ノリダスさんが先日ふれてくださったように、3.11では、
「画面から、なじみ深いベテランアナウンサーが出てきて、落ち着いて情報を
伝えてくれたので安心した」という声が、意外にも多かったことが明らかになってきました。

スムーズに情報を流すのが優先か、
まず安心感を与える方が大事なのか。
わたしたちも検討しました。

そして、まずは、不安な心を少しでも和らげて、被災者がこころの余裕をもてるように
してあげたほうがいいのではないかということで、
まず、ベテランが画面から落ち着いて情報を伝えるということにしました。
もちろん、サブアナが若手だからといっても、普段から訓練はしているので、
情報の整理能力に問題はありません。

そして、いま、もう一つ検討していることがあります。

津波からの避難を、どのように呼びかけるか。

大きな津波が来ることがわかり、津波からの避難を呼びかけたにもかかわらず、
逃げ遅れた多くの犠牲者を出してしまった・・・ということが、いまでも
心に重くのしかかっているという被災地のアナウンサーはたくさんいます。

もっともっと伝わる方法はなかったのか―。
どんな呼びかけなら、伝わったのか―。

「避難の呼びかけ」について、これまでわたしたちのマニュアルでは、
“落ち着いて”“はっきり”“ゆっくり”というのが定石でした。

しかし、最近、緊急性を伝えるためには、落ち着いた口調で「避難してください」ではなく、
語気を強めた口調で「避難しなさい!」という命令形でもいいのではないか、
という意見も出てくるようになりました。

どうすれば、犠牲者を1人でも少なくできるのか。
あらゆることを想定しながら、わたしたちアナウンサーができることを、
考え抜きたいと思っています。