たった一夜で、人も家畜も、村ごと静かに命を落としたという、
「ニオス湖の悲劇」―。
カメルーンと聞くと、このワードを思い出す人も多いかもしれません。

1886年、西アフリカのカメルーンで起きた怪事件は、世界中を震撼させました。死者は1700人、家畜も8000頭が死んだこの事件は、当時、政府か反政府体制者による大量虐殺ではないか、UFOによる仕業ではないかなど、さまざまな憶測がされましたが、世界中から集まった科学者によって、ニオス湖という火口湖でおきた湖水爆発であったことがわかりました。

火山地帯にあるニオス湖は、湖底から常に二酸化炭素が供給されていて、湖水は、ソーダ水のような状態。常温の炭酸飲料のカンをふって栓を開けると、泡が噴き出るように、二酸化炭素の飽和状態だった湖水が、限界をこえて小爆発をおこし、空気より重い二酸化炭素が山の斜面を伝って一気にふもとの集落を流れ、夜間の一瞬のうちに、酸欠で住民たちの命を奪ってしまったということ。

静かに大量虐殺をしたのは、二酸化炭素だったのです。

この30年、カメルーンと聞くと「ニオス湖」を思い出していたわたしの長年の未解決残虐事件の真相を知ることができました。

【地球の履歴書】 大河内直彦

地震や噴火、異常気象など、いま、大きな異変が、地球規模で起こっているのではないか、と思わせることが多くなりました。
この本は、それは「異常」ではなく、何億年というスケールでみた地球の日常であることを伝えてくれます。

たとえば東日本大震災。
『地球の表面は、ジグソーパズルのような、10数枚の「プレート」と呼ばれる固い岩盤のピースで組み合わされている。プレートは、海嶺と呼ばれる海底山脈で新しい岩盤が生まれ、同じ面積の岩盤が、反対側で、ほかのプレートの下に沈み込み、同じ面積が保たれている。太平洋プレートは、太平洋東部の海嶺で生まれ、日本海溝でゆっくり沈む。東日本大震災を引き起こした大地震は、およそ1億年以上前、恐竜が闊歩していた時代に生まれた岩盤が、反対側に沈み込んだものである。』

また、地球上の近代化については、
『地球の中心部はドロドロ溶けた鉄やニッケルが対流していて、そこには数十億アンペアという莫大な電流が生じている。わたしたちの足元には、天然の電力が大量に秘められているのに、多くの国がいま、エネルギー供給に苦労しているのは、皮肉な話である。』

ほかにも、
紀元前1世紀のギリシャでは、地球の全周を計る算式まで知識が到達していたのに、シーザー率いるローマ人の侵略によって、学術研究がすべて焼き払われ、人類の知の財産が壊滅したことや、
1991年のフィリピンのピナツボ火山の大噴火は、以後数年、世界中で異常なほどの美しさを持つ夕焼けをもたらしたなど、地球にまつわる興味深い話がつきません。

「結婚して30年、苦労ばかりよ」とか「左遷されて5年も苦しんでいるんだ」なーんて悩みは、吹いて飛ぶほどのスケール感です。
うつうつ悩みそうなときは、この本で、数十億年前の星の誕生の時代までワープしましょう。