ちょっと前、マイケル・サンデル教授の「正義」がブームになりました。
高速で走る路面電車、ブレーキはきかない。線路の先にいる5人を救うための1人の殺人は正しいのかー。
5人死ぬか1人を殺すか〝必ず選べ″って、思いっきり悩んだ人は多いのではないでしょうか。

 

正義について考えよう  猪瀬直樹 東浩紀

 

まえがきは、アメリカが直面した「正義の選択」からはじまっています。

9.11に直面したアメリカでは、アフガニスタンで決断が迫られた。タリバンの指導者を探してアフガニスタンに出兵した時、ヤギを連れた少年に出会った。非武装の民間人らしいが、解放すれば、米兵の存在をタリバンに知らせてしまうリスクがある。殺すか解放するか。キリスト教徒としての良心が、殺さないことを決断した。その1時間半後、米兵はタリバンに囲まれ、多くの仲間たちが犠牲となった…。

テロや紛争を抱える国は、そういった正義のジレンマを抱えながらの決断が、日常に存在している。
翻って日本は、こんなジレンマにしばらく直面したことがない。決断しなければ責任は問われない、という不決断の中に正義が埋没してしまうと、猪瀬氏は指摘します。

 

猪瀬氏が、不決断の国、日本を語るキーワードのひとつに「ディズニーランド化」があります。

戦後の日本は、弱肉強食の世界から隔離されたファンタジーのような空間にいる。安全保障を担ってくれる門番は、アメリカ。アメリカが演出している「ディズニーランド」のような世界にいるので、戦争なんて想定外。国家とかそんな大きなことは考えなくていい。お金儲けとかロボット開発とかそんなことだけをやっていればいいとアメリカに言われているので、世界でおきている現実から目を背けて、思考停止のまま時間が過ぎている。
しかしアメリカのディズニーランド運営もほころびが見え始めてきた。
いつまでも、現実から隔離された場所にいるわけにはいかないよ、が議論のスタートです。

 

自分自身思い返すと、学校で、国家とか国防などにふれる授業が1回だけありました。
中学校の社会の授業で「自衛隊の役割」についての話になりました。(40年前。。。)
日本は戦争を放棄している、なのに自衛隊がある、矛盾しているのではないか…と、ひとしきり先生が説明した後、「自衛隊は必要かどうか」と、挙手で問われました。
私は、「必要」に手を挙げると、その理由を問われました。そんなに深く考えてなかったので「災害のときなど、自衛隊の人が助けてくれている」と答えました。
すると先生は「そんなことは自衛隊でなくてもできる。あんたは戦争をするのですか。日本に軍隊は必要なのですか」と、激しく問い詰められたのを覚えています。
今思うと、その先生も〝何だかなぁ…″、という印象ですが、国家について様々な角度から考える教育機会がなかったのは、国際的にみても特異であると感じます。

 

この本では、猪瀬氏と気鋭の思想家、東浩紀氏が、憲法改正、安保法制、基地問題、福島原発、東京五輪問題などについて、「正義」を軸に縦横無尽に語っています。
世界で何が起こっているのか直視し、現状を想像し、思考する力をつけておかなければ、未来はつくれないということを投げかけています。
いまでも「都議会のガン」告発ツィートなど、さまざまな問題提起をしてくれる猪瀬氏ですが、
ほかにも、「ミカドの肖像」や「土地の神話」「日本国の研究」から、近著の「救出」「さようならと言ってなかった」まで、これまでの作品のエッセンスや取材エピソードにも触れているので、猪瀬作品をざっくり知りたい人にはおすすめです。

 

つぎの日曜日(16日)、猪瀬直樹氏の講演会が南海放送で開催されます。満員御礼で、もう参加は締め切られていますが、年末に放送が予定されています。どんなお話になるか、楽しみです。