80年代、パルコとかロフトとかセゾン劇場とかスペイン坂とか、百貨店でありながら文化を生み出した西武セゾングループは、田舎に暮らす女子大生の私にとって、キラキラしたあこがれの企業だった。
サブカルチャーを代表する雑誌「ビックリハウス」(パルコ出版)も、よれよれになるほど愛読していたなあ。

その中心がオーナーの堤清二氏。

堤清二 罪と業 最後の「告白

 

西武グループを築いた不動産王・堤康次郎の正妻の子でありながら、内妻の子、義明氏が後継者に選ばれ、そのほとんどを、腹違いの弟が継ぐことになった。
兄である清二氏が引き継いだのは、つぶれかけの西武池袋デパートのみ。その西武デパートを立て直し、セゾングループを築き上げ、日本の文化の発信地としてさまざまに影響を与え、さらに、辻井喬というペンネームをもつ作家でもあった。

堤康次郎氏というと、実業家・衆議院議長までつとめた政治家であったが、女は数知れず、子どもも何人いるかもわからないという女癖の悪さ。(今だったら文春で瞬殺だろうな)
加えて、戦時中、空襲から逃れるために、自宅の広大な敷地内に入ってきた人を「追い出せ!」と追い出した、非道・強欲なエピソードもある。

同様に、西武グループの後継者・義明氏も、古墳と見まがうような巨大な堤家の墓所に、毎日社員を交代で常駐させ、元旦7時には、幹部社員数百人を整列させたなかに、ヘリコプターから義明氏が降り立ち墓参りをするというのが恒例行事だった、というエピソードももつ。(今だったら〝墓なう″とか〝ブラック企業″とかツイートされてしまうんだろうが)

ギトギトしたイメージの堤康次郎氏や義明氏にくらべ、清二氏は、文化の香りが漂う薄幸(?)の実業家のイメージだった。

が、他者への「冷たさ」は同じだったよう。

かつての部下へのインタビューでは、事業拡大への執着や部下への激しい叱責など、怒気を含んだ思い出しか語られない。

この本は、その堤清二が亡くなる1年前のインタビュー。

父は結局、事業の後継者に自分ではなく弟を選んだ。自分より能力も知性も劣ると見下していた弟に対抗するように、清二氏は次々と事業を拡大し、日本一の流通グループを築き上げた。
にもかかわらず、清二氏が自分に言い含めるように吐いた言葉が胸を刺す。

「父に愛されていたのは、私なんです」―。

地位も名誉も財産もすべて手に入れて、余生をおくる年齢になっていても、渇望していたのは肉親の愛情だと思うと、人間の幸せってなんだろうかと、改めて考えさせられた。