2大出版取次の日販とトーハンで、きょう発表された上半期ベストセラー総合1位になっていましたね。
【天才】 石原慎太郎 幻冬舎
田中角栄ブームの中心となったこの本、中身については、雑誌やワイドショーなどでさんざん紹介されていますが、
日本人が大好きな「義理人情」、「立身出世」をそのまま体現している生き方(ストーリー)だったから、ここまで惹きつけるのでしょうね。
よく紹介されるエピソード(本の内容)として、
・子どもの頃、父親の借金を申し込みに行ったら、父親を侮蔑された。金の貸し借りが人間の値打ちまで決めてしまうことを身をもって知った。
・小学校卒業後、極貧の家計を助けるため、土木工事のトロッコ押しで日銭を稼いでいた。ひょんなことで、県の職員に採用され、工事現場の監督なったところ、これまで「トロッコ押しの若造」と見下していたの現場監督たちが平身低頭となった。世の中を仕切っているのは、お上役人たちが作っているタテのしくみであり、その仕組みを自在に使える立場は何なのか目覚めた。
・満州の軍隊に派遣されたとき、軍の食糧の見張りであったが、兵隊たちが時々盗みに来るのを、ある程度見逃してやったら、いい人間関係ができた。
・代議士になりたてのころ、「あんたら土方でトロッコ押したことがありますか?」と、周囲のエリートたちがもたない体験を武器にした議論で畳み掛け、つぎつぎと法案を作成させていった。
・冠婚葬祭、とくに葬儀には精いっぱいの義理を果たした。
角栄氏が飛び抜けて長けていた人心掌握術と、自己プレゼン力。
そんなエピソードが、自分語りのように描かれています。
とくに、大蔵大臣に就任したとき、エリート官僚たちを前にした演説、
これは伝説のスピーチとして、よく知られています。
『私が田中角栄だ。私の学歴は諸君と大分違って、小学校高等科卒業だ。諸君は日本中の秀才の代表であり、財政金融の専門家ぞろいだ。私は素人だがトゲの多い門松を沢山くぐってきていささか仕事のコツを知っている。これから一緒に仕事をするには互いによく知りあうことが大切だ。我と思わん者は誰でも大臣室に来てほしい。何でも言ってくれ。一々上司の許可を得る必要はないできることはやる。できないことはやらない。しかしすべての責任はこの俺が背負う。以上。』(本文より)
自分の弱みを強みに変えて、たった数分で人心を掌握してしまう、カリスマスピーチは、ドラマのワンシーンンのようで、シビれます。
今、巷にあふれているビジネス本なんて、ほとんどこのロジックで書かれていますよね。
ただ、読み物としてはとても面白かったけど、事実と(石原さんの)創造がどこまでどうなのかわからないところもあるので、ざっくり娯楽として楽しむには極上の作品だと思います。
「政敵と言われたアノ石原慎太郎氏が描いた!」「今、時代が求めているのは田中角栄氏的なものではないか」といったテーマで、トークが展開されていた、ある日のワイドショー。
コメンテーターとして出演していた二男の石原良純さんは、
「彼は作家ですから。年に数本書いている作品の一つにすぎませんから。作家が書いたものとして読んでほしい。」と、
少々このブームに戸惑っているような表情を見せてしゃべっていたのが、印象に残ります。
石原裕次郎さんのことを書いた「弟」を出版したり、東京都知事4選や、新党の結成、また、「ババア」をはじめ「尖閣諸島購入」など数々の発言で物議をかもしたりと、定期的ともいえるほど、マスコミに話題を提供している石原さん。
大衆は、今なにに惹きつけられるかひっかかるか、マーケティング力の天才なんだろうと思う。