「競争と公平感」大竹文雄  中公新書
   

タコ松を見て、切なくなる時がある。

この子が大きくなった頃、日本の人口は、ほとんどリタイアした高齢者で占められている。
働いても働いても、給料のほとんどが、税金や年金で持っていかれる。
いまの3倍近い金額だろう。
おまけに、消防団や町内会、自主防災など、地域の役割も、やたら担わされる。
仕事を終えて、くたくたになって家に帰ったら、年老いた親の世話が待っている。
タコ松一人で、2人の親の世話をしなければならない。

国会では、毎年毎年、納めなければならない税や社会保険料が急上昇してゆく。

少子高齢化が進む日本。
タコ松が、働き盛りとなる頃には、人口の半分以上が、年金暮らしのお年寄りになっているだろう。
タコ松ひとりで、お年寄り2人分の年金を稼がなければならないかもしれない。
さらに、若い人が少ないから、消防団や防犯ボランティア、町内会など、地域を維持する役割は真っ先に回ってくる。

働き盛りの苦労は無視されて、年金・医療や福祉など高齢者にとって有利な政治がどんどん行われてゆく。

なぜなら、有権者の大多数が、高齢者だから。

現役世代の負担を軽くするために、高齢者の医療費負担をちょっとでも増やそうものなら、政権の座から引きずり降ろされる勢いだろう。かつての後期高齢者医療制度の反発だって記憶に新しい。
せめても、子どもの教育関連の予算を増やしてあげようとしても、「そんなの知ったこっちゃない」。
子育てなんてとっくに終わった高齢者にとって、子どもの教育なんて、自分の生活に何ら関係ない。
日本の未来づくり…なんて、そんな遠い将来より、今の自分の年金や医療のほうが大事だ。

さあこれから、介護サービスを受けに行くぞ。
なに?介護をする人手が足りない?
それなら、韓国の「兵役」のように、18歳から28歳までの若者には必ず介護を義務付ける「介護役」とやらの法律を作ればいいじゃないか。
なんせ、われわれ高齢者は、絶対的な票数と政治力を持っているんだ。
われわれの都合のいいように、政治をさせるのは当然じゃないか。

若者よ、働け、われわれ世代が幸せに死ぬまで、われわれのために働いて金を稼いで世話をしろ。「投票権」という「平等な制度」のもとに実行して、何が悪い―――!影子ばあさんは叫ぶ。

「わたしたちは、何のために生まれてきたの?」。

20年後の、タコ松の声が聞こえてきたような気がした。