今更ですが、優秀な記者というのはびっくりするくらい記憶力がいい。
愛媛の伝説のジャーナリスト、愛媛新聞社相談役の今井瑠璃男さんは、何度かお話を伺ったことがありますが、御年88でありながら、過去のご自身の取材した内容、居合わせた場面のことを克明に覚えていらっしゃって、感銘を受けることがしばしばです。たとえば、しまなみ海道を建設するか否かを決定づける局面が、南海放送本町会館(現本社です)の2階レストランであり、その座席の位置、出席者の手の動き、表情、複数人が交わした会話を克明に記憶していらっしゃったり。
当然録音なんてできないし、緊迫の局面では、メモなんて持てない。
五感を最大に研ぎ澄まして、目の前の出来事を頭に刻みつけているのですね。
加えて、ひとつの事象の予測を立てるときには、その予測に対するありったけの疑問を洗い出し、つぶさに検証して、疑問がすべて否定できたところで、はじめて予測となる・・・まるで科学の実証実験のようでもあり、理系的思考能力を備えている人じゃないと、記者はできないな、と感じたことがあります。
総理 山口敬之
夜中の3時まで一気に読んでしまいました。
おもしろかった―。
この本は、ワシントン支局長まで勤めた元TBSの政治記者が執筆しています。
2007年に第1次安倍内閣で安倍総理が突然辞任をした場面から、ふたたび総裁を目指すようになった背景、消費税増税延期の財務省との丁々発止など、政局の重要な場面に居合わせた著者が、登場人物の会話や表情などを、克明に記録しています。
消費税増税延期決定の際の、安倍氏と麻生氏との駆け引きでは、メッセンジャー役を任されたり、衆議院を解散するときの安倍氏の会見原稿を、本番さながらに目の前で読んで見せるなど、著者には全幅の信頼を置いていたことがうかがえます。
また、官僚と政治家の駆け引きについても描かれていて、官邸をコントロールしようとする財務省の老獪な手口や、逆に、官庁の人事権を掌握してゆく菅官房長官の見事な手腕も垣間見ることができたりと、リアルな政治中枢を覗くことができて、とてもおもしろい。
よくここまでの至近距離に近づけたのね、
よくこれほどの情景と会話を克明に覚えていたのね…と、感嘆。
2007年の安倍内閣崩壊で「オワコン」になりつつあった安倍氏を励まし、孤軍奮闘で支え続けた菅義偉氏の見事な軍師っぷりと、武士道を体現しているような麻生氏の男気にも感嘆。
ついでに、森喜朗氏、石原伸晃氏の小粒っぷりには、やーっぱりね、と感じた次第です。