きのう、取材した産婦人医師と、雑談をしていました。

「産婦人科医のなり手が少ないのは、なにか、解決策ありますかね?」
と私が尋ねると、
医師はひと言。
「お金では解決しませんよ。今の若者は、お金では、動きませんね」―

やっぱりこの世界でも、ですね。
医療の中でも断トツに激務の現場。
いくら高い報酬を見せたところでも、「自分の時間」を上回る、動機づけにはならないようです。

私たち以上の年代は、「お金」というのが、「目の前のニンジン」になったりもしました。(バブル世代のわたしなどは、今でも確実にそうですが)
「ニンジンを食べるために、あくせく走るなんてまっぴら!」という人たちに、走ってもらうには、どうすればいいのでしょうね。

いま、売れているらしいですね、この本。
「人事部は見ている。」 楠木 新 日経プレミアシリーズ 893円

なんでアノ人が、出世したのか?
誰が見てもダメ社員という人材を、なんであのポジションに置いておくのか?

会社員やっていると、どの会社でも「人事の7不思議」というものはあると思います。
その謎が、いくつか解けた気がしました。

しんどい仕事は部下に押し付ける、すぐに感情的になって部下を罵倒する、不都合があるとすぐ部下のせいにする・・・そんなAさん。
部長なのに、率先してしんどい仕事をこなす。部下の教育や、精神面のケアも熱心。紳士的で、小さな仕事にも真摯に取り組む・・・そんなBさん。
でも、Bさんは、部長のまま定年退職。一方のAさんは、あれよあれよという間に、本部長になり、役員になり…
こういうことが、みなさんの周辺にも、少なからずおこっているのではないでしょうか。

なぜAさんが、役員になれたのか。
なぜ社長は、Aさんを選んだのか。
その基準は「仕事の出来不出来」とか「部下からの信頼感」とか「紳士的な態度」・・・などではなく、
「忠誠心」に尽きるのです。

【社長というものは、常に、究極の選択を迫られている。
そんな緊迫した状況にいつもさらされる人間にとって必要なものは何か・・・
それは、自分を応援してくれる人間であり、自分がこうしてほしいと言ったことをちゃんと忠実にやってくれる人間。そんな人材を身近においておきたいものだ…】

ということで、出世するための要素には、われわれが考える「仕事の出来うんぬん」ではなく、「社長への忠誠心」という重要な項目があったわけですね。

「あいつはイエスマンだから」「上に対してだけは気を使うヒラメだよな」などと言われつつも、組織にとっては、大事な「評価基準」だったワケです。

7不思議の、2つめにまいりましょ。

「ボケ上司の尻拭いは、ぜーんぶ俺たちがやらされている!」と不満をお持ちの会社員の方も多いかと思います。

本書には、
【日本は、役職に関係なく、結果的に、能力の高い人が、低い人をカバーしながら仕事を進めていることが多いもの。力量のある部下が、年功序列で昇格した上司を支える構造の部署も少なくない。役職と能力が逆転しているのはおかしな話ではありますが、「互いに助け合う」ことが、結果的に、共同体としての力を強めていることもある…】

とありました。

つまり、ボケ上司のおかげで、実は、部下のみなさんの力量が上がっている、ということなのですねー。
オレの頑張りが、イコールボケ上司の評価アップにつながっているんだ、と憤懣やるかたないお気持ちの方もいらっしゃると思いますが…

救いは、ボケ上司も、「一生もは、あなたの上にはいない」ということでしょうか。
いずれ人事異動はあるし、定年だってある。とつぜん社内政変がおこって、対立していた人たちは一掃されるかもしれない。

まさに人生ゲームですね。

ところで、会社員の、会社や仕事に対する不満は、その大方が、「自分はこれだけすごい仕事をしているのに、会社(上司)は、わかっていない!」ということに集約されるそうです。
「どーすれば、オレのすばらしさを会社にわかってもらえるのだろう」と思いながら、この本を手にした人も多いかも。

しかし、人というのは、自分の力を、実際より3割はアップして評価しているそうです。
身の程知らずな要求をうまくかわしながら、「ニンジン」もぶら下げて・・・人事部って面白そう。

「組織でおカネをもらい続けるお作法」をそっと教えてもらったような本でした。