かなり前に、ある作家のかたに、「日頃どんな本を読んでるか、“私の本棚”みたいな感じで取材させてもらえませんか?」とお願いしたことがあります。すると即座に、「どんな本を読んでいるか、というのは、自分の思考の内部をさらけ出すようなので、厭だ」と断られました。
確かに、わたし自身だって、来客が見るリビングに並べといても「恥ずかしくない本」と、「こんなの読んでるの?」と思われそうな、ちょっと恥ずかしい本もあるし、なんだか、アタマの中味見られるような気がして躊躇するよな、と思いました。

そういう意味で「自分の本棚」というのは、かつて、かなりプライベート性の高いものでありましたが、今では、「ブログ」が該当するのではないでしょうか。

パソコンやケータイの「お気に入り」に入れて、毎日チェックしてしまうブログ。
かなり、その人の趣味・嗜好性が現れますよね。

「趣味」や「憧れの人」に、「オタク」「あっち系」「エロ」「グロ」…。

わたしが毎日チェックしてしまうのは2つ。

一つは、わたしと同世代で、バブル時代に、時代を代表するような人気モデルとして活躍し、現在は、病院をいくつも経営する医師と結婚して、モデルの仕事をちょこっとしながらも、ゴージャスな生活をしている女性のブログ。
銀座の超有名店でのディナーとか、超高級ホテルでのランチとか、「気が向いたから友達に会いに、ちょっとモナコへ旅行」とか、毎日、めくるめくような豪華な生活の様子が紹介されています。
ペット(犬)のために、2000万円かけて専用の部屋を改造したとか、運転手つきの超高級車で、週末には、億円以上する会員制リゾートホテルで過ごすとか、まあすごいすごい。
どう逆立ちしても、この人のように美しくなれないし、莫大なお金が空から降ってくるわけなんてないわけで、一生見ることのない世界をのぞいて、その世界を楽しむ、つまり、「宝塚の舞台」を見るような楽しさがあるのです。

そしてもう一つは、「いま、働く女性にもっとも憧れられている」という女性、佐藤悦子さんのブログです。
佐藤さんは、ユニクロを手がけたことで知られるアートディレクター佐藤可士和氏のパートナーです。(今治タオルのブランディングもしていますね)
今でこそ、佐藤可士和といえば、日本を代表するアートディレクターとして、多くの人に知られていますが、「業界内の有名人」から、「時代のアイコン」にプロデュースしたのが彼女、と言われています。

仕事ができるのはもちろんですが、美しいし、ちょっと前の、「デキル」女性のような、とんがった部分はなく、柔らかさと強さを持った女性です。かつ、4歳の子どももいて、週末は子どもと一緒に家族で、アウトドアや旅行を楽しむ様子も紹介されているのです。(もちろんお出かけ先は、さすがセレブ!ですが)
仕事でもプライベートでも、「幸せオーラ」にあふれているブログです。

賢さとか、仕事の有能さとか、ダンナの出来とか、とてもとてもわたしなどが目指せるクラスの人ではありませんが、「なんでも手に入れている人」は「何で」こんなにたくさんの「幸せ」を手に入れることができるんだろう…という、そのヒントをみてみたいということでしょうか。

で、今週の本は、その佐藤悦子さんの対談集
「オトコらしくない」から、うまくいく  佐藤悦子 清野由美  日本経済新聞出版社 

仕事をする基本をあらためて教えてもらったような本です。

クリエイティブな業界では、打ち合わせの時間に4時間遅れても、普通に「ちーす」と言って、そのままあたりまえのように仕事をしたり、「ワンカット」のためだけに、何千万のロケをして予算を大幅にオーバーしようが、「大物の武勇伝」で済まされた時代もありました。でも、今はそんなにみんな暇じゃないし、どの業種だって、ぎりぎりの予算でやっている。普通のことがちゃんとわかっていて、普通のことができる、普通以上の人じゃないと、ビジネスの世界では通用しない、と書かれています。

「武勇伝」は極端としても、どんな立場の人であれ、時間を守る、挨拶をする、物をもらったらお礼をする、会食に招いてもらったら手土産くらい持っていく、翌日にはお礼の電話やメールを入れる、そんな「あたりまえのこと」がきちんとできた上での「仕事」である、とあります。

そうですね。
4時間とまではいかないけど、いつもミーティングに遅刻をする、ぎりぎりに飛び込んでくる人、というのは確かにいます。
みんな、忙しい時間をやりくりして、時間を作っているのに、その行為は、「人の時間に鈍感である」ということ。
そんな人と仕事をしても、「あらゆる面でルーズな人ではないか?」と感じてしまいますよね。

また、ビジネス上では、「常に笑顔で」「感情を出しては負け」と書かれています。
かーっとなると、冷静な判断ができなくなるだけでなく、「感情をダダ漏れ」にしてしまったあと、自分に帰ってくるダメージはとてつもなく大きい――と。

カチンときたとき、それに乗る形で感情的に話してしまい、収拾がつかなくなってしまった…という経験、わたしには数えきれないくらいあります。
たとえば「収録時間を1時間ずらしてほしい」という目的があり、ディレクターに交渉したとき…。「お願い」「駄目」「なんとかならないか」「ありえん」…そこでこちらも、カーッとなってきつい言葉で返してしまうと、「時間変更」の目的を達成できないだけでなく、「永野さんは、すぐかっとなる人」とか「わがまま」「こんな人とは、もう一緒に仕事したくない」「あなたも、永野さんと仕事するときは、気をつけたほうがいいよ」と、ダメージは、果てしなく広がってしまいます。

そのためには、一呼吸置くこと。
相手の言葉に、かーっとなりそうなときは、「えーっっ!そうですか?」とか笑顔で言いながら、その間に、感情の立て直しをはかる。笑顔の一呼吸で、次に発する言葉が違ってくる、というもの。

ほんとうに、ビジネスの基本中の基本が詰まっている対談本ですが、彼女のブログを見ていて、こういった地味なことを、ひとつひとつこなしているからこそ、プライベートのはじける笑顔があるんだ、と感じました。

だらっとしていても、この本読むときは、背筋が伸びますよ。

←「ホテル奥道後」のプール。水でなくて、温泉なのよ。ちょっと硫黄臭のする泉質が大好きで、何度も温泉には入りに来ているのですが、その温泉水がそのままプールになるなんて、なんて贅沢!
タコ松は素潜り。わたしたちは、ぼーっと浸かって”涼んで”います。