どんな無茶振りの上司がいるんだろう、どんなモンスター部下がいるんだろう、と、興味津々、タイトルにつられて買ってしまいました。

心が折れる職場 見波利幸

タイトルはインパクトがありますが、内容は、いたってオーソドックスな、メンタルヘルスの基本が書かれています。
最近は、メンタルヘルスについてあちこちで特集組まれていたり、研修があったりするので、みなさんそれなりの知識はお持ちです。

帯にも書いてある『飲み会の少ない職場は危険』というのは、想像通り。
今晩いきましょか、といった自然発生的な飲み会がない職場は、メンタル不全者が出やすいとのことですが、まあ、そうでしょ。普段から職場内でのコミュニケーションが活発でない=メンタルのケアができていない、ということですから。

また『アドバイス上手な上司が部下の心を折る』という項目では、
部下が抱えている問題に対し、切れ者の上司は、自分のやり方で見つけた答えを、そのまま部下に実行するようにアドバイスすることをしがちと指摘しています。
〝こういうふうにやればえーんよ、なんでそれくらいのことが…″といった感じで、答えをぽーんと押し付けるのではなく、部下が自分で答えを見つけて自分でやろうという気持ちになるように、寄り添うのがベスト、「傾聴」をしなさいねということを述べています。
とてもスタンダードです。

とまあ、目新しい内容はあまりないかも…と思いながら読み進めると、なるほど、と感じた項目がありました。

『90分のメンタルヘルス研修で不調者が増える理由』というところ。
いま企業では、わが社もメンタルヘルスに気を遣っていますよ、という姿勢をアピールするために、「とりあえず」メンタルヘルス研修を取り入れているところが多いそう。
やはりアピールのために取り入れた企業は、90分コースなどコンパクトな研修をしがち。
やっかいなのは、管理者を対象に行ったコンパクト版メンタルヘルス講習。90分だと概論程度の、表面をさらっとしかできません。
今の時代ならみんなが知っているような内容になりがちで、「そんなことぐらい自分だって知っているし、やっている」とほとんどの管理者は思ってしまいます。
本当はもっと深い部分に問題は潜んでいるのに、「とりあえず管理者研修を受けた=自分はメンタルヘルスはばっちりだ」という思い込みと、研修終了という誤ったお墨付きを与えてしまい、無自覚な上司として、部下たちを絶望的な気分にさせてしまうというもの。

たしかにね。

メンタルヘルスに限らず、「すべて正しく切れ者のオレ様が、未熟なキミに教えてやってるんだ」という態度の上司は、ほんとうに、心を萎えさせますよね。

この本のタイトルにそそられて、本を手にする人は2タイプじゃないでしょうか。
「自分の職場は大丈夫だろうか」とおそるおそる手にする管理職のかた。
または、
いまにも心が折れそうなひどい職場にいて、自分が置かれている環境の不条理さを確信するために手に取る人。

管理職のかた、手にした段階で、あなたは、いい上司だと思います。ほんものの「部下の心を折る上司」は、部下の心なんてまったく関心ありませんから。
いまにも心が折れそうなかた、解決法は本の中にはかかれていませんが、この本を、これ見よがしに上司の机の上においてみませんか。