勝てば官軍ではありませんが、あれだけ泡末候補だ、差別主義者だ、性格破綻者だなんていいながらも、次期大統領という、世界ナンバーワンの称号を手に入れたことで、「トランプの名言集」とか「成功哲学」といった賛辞本がぞくぞくでてくるんだろうな。

この本は、トランプ氏に批判的なワシントンポスト紙の精鋭取材班によるリポートということを差し引いても、トランプという人物の「不気味さ」が伝わってきます。

【トランプ】 ワシントン・ポスト取材班

目立ちたがりやでケチというのは、成金によくあるパーソナリティですが、トランプ家も例に違わず。
不動産業をおこした父フレッドは、富裕層の住む地域でも特に目立つ大邸宅をしつらえて、キャデラックのリムジンをこれ見よがしにおいていたり、金満ぶりを見せつけていました。しかし、高い場所にある隣家にテレビアンテナを立てさせてほしいと頼んで快諾してもらったにもかかわらず、「これはトランプ家専用で、お宅には使わせない」と言ったり、隣家の子どもがあそぶボールがトランプ家に入ったら、「警察に言いつけてやる」と怒鳴ったり、とかく変わった一家だったそうな。

気に入らないと音楽教師を殴ったり、友人に自転車から飛び蹴りを食らわせたり、ただのわんぱくでは済まない子ども時代を送ったトランプ氏。

父と同じ不動産業に就き、マンハッタンの土地に目をつけたトランプ氏は、冷徹な敏腕弁護士を側近にして、コネや脅しやだまし討ちで、法を悪用し、格安でしたたかに不動産を手にしていきました。

トランプ氏のオフィスのデスクの上には、自分の取材記事や、自分が表紙になった雑誌を自慢げに積み上げていましたが、自分の気に入らない記事を書いた記者に対しては、攻撃的な手紙を執拗に送りつけていたらしい。とくに、自分の資産に関する気に入らない記事(資産は実は少ない、など)に対しては、冷徹弁護士とともに、訴訟をおこすと脅しあげていたそう。

ミスユニバースの運営権をもったり、カジノ会社の赤字を隠すために粉飾決算をしたり、自分が司会を務めるテレビ番組を持ったり、トランプブランドを大きくみせることを何よりも重要視しました。

そして金においては自分が損をすることを許さない。
トランプブランドのホテルなど、海外プロジェクトも手を出していますが、それはライセンス契約で、トランプブランドの使用料を受け取るだけ。かりにプロジェクトが破たんしても、トランプ氏にはお金が入るしくみになっているといいます。

目的を邪魔する者にも容赦ありません。
スコットランドにゴルフ場を作ろうとしたときは、立ち退きを拒否する住民に対し、家の前に巨大な盛り土をして眺望を遮り、雨水被害をもたらすように仕向けたり、執拗な嫌がらせをしたと指摘しています。

加えてこんなケチな一面も。
トランプ氏所有のあるホテルで、取引相手が煙草を吸おうとテーブルの灰皿に手を伸ばしたがびくとも動かない。トランプ氏は「灰皿はすべてネジでテーブルに固定している。そうしないと客が記念に盗んでいくから」-。

自分を大きく見せることに血道をあげ、それを邪魔するものは、訴えると脅しあげたり執拗に痛めつけ排除する。金儲けと名声を高めるためならば、あらゆる手段を使って手に入れる。そして友人もいない孤独な人物。
これがこの本を読んでのトランプ氏の印象です。

わたしたちは、常識外のひとに遭遇してしまったら、つい「そう見えても実はいいところもあって…」と、「“実はいいヒト”であってほしい願望」を実像に重ねたりしますが、この本からは、“実はいいヒト”を感じさせるエピソードは微塵もありませんでした。

そして、子どもの頃のエピソードから。
まだ小学校に上がる前、近所の赤ちゃんのいる家の裏庭に忍び込み、ベビーサークルに入った赤ちゃんに石を投げていたり、ある時は、建設途中の下水道の中に入り込んで、大人も怖がるような真っ暗闇の中を、平然と歩き続けていたそうな。

弱い者をいじめることに快感を得たり、「怖い」という感情が欠落していたり…ちょっとまえに読んだ「サイコパス」という本の事例に似ていて、ぞっとしました。